「十億円の投資」を勝ち取る表現者とは——元K-POP審査員が語る「合否の境界線」

K-POPが世界を席巻する今、その門戸はかつてないほど狭き門となっている。HYBE、JYP、SM、YG……。数万人が押し寄せるオーディションの「審査員席」で、彼女は何を見てきたのか。10年のキャリアに終止符を打ち、現在は後進の育成にあたるA氏が、美しくも残酷な「選別の真実」を赤裸々に明かした。

――審査員席に座る時、まず最初に何を感じるのでしょうか?

「期待」と「諦め」の入り混じった感覚ね。扉が開くたびに、私たちは一人の人生を左右する決断を迫られる。でも、正直に言うわね。部屋に入ってきた最初の「3歩」で、その子の合否の8割は決まっているわ。

――わずか3歩、ですか。それはあまりにも残酷な気がします。
 そう思うでしょう? でも、ビジネスの現場ではそれが現実。私たちは、その子が「歌が上手いか」を見ているんじゃない。「この子をセンターに据えて、世界中から数十億の投資を回収できるか」という投資家としての視点で座っているの。

歩き方ひとつで、その子が自分をどう定義しているかが透けて見える。「受かりたい」と顔色を伺いながら入ってくる子は、ただの候補者。一方で、受かる子は「自分がこのグループのセンターだ」という覚悟を背負って入ってくる。その迷いのなさが、いわゆる「主人公のオーラ」として空気の振動を変えるのよ。

――具体的に、評価シートには何をメモしているのですか?

よく「歌の音程」や「ダンスのキレ」を気にする子がいるけれど、そんなものは後からどうにでもなる。私がメモしているのは、もっと物理的で執拗なチェック項目よ。

例えば、「顎(あご)の角度」。

マイクを持った時、あるいは激しいターンをした後、カメラが自分を捉える瞬間に「最も美しく、かつ自信に満ちて見える角度」を、ミリ単位で固定できているか。顎を引きすぎれば自信がなく見え、上げすぎれば品を損なう。その「黄金の角度」を、意識せずとも身体が記憶しているかを見ているわ。

そして、「表情の管理(ピョジョンクァンリ)」。

多くの志望者は「笑顔」を作ろうとするけれど、私たちが求めているのは「感情のコントロール」よ。曲のフレーズごとに、目線の配り方、口角の上げ方、眉の動き一つひとつを点数化している。どんなにダンスがプロ級でも、顔が必死になっていたり、逆に無表情だったりする子は、SMやYGといった大手では「秒で忘れられる」対象ね。

――「顔が可愛い」「ダンスが上手い」だけでは加点にならない、という言葉の真意を教えてください。

それは、K-POPという戦場において「武器」ではなく「防具」だからよ。防具(スキルや容姿)を持っているのは当たり前。それがないと戦場にすら立てない。

私たちが加点するのは、その防具をどう使いこなして「自分という商品をプロデュースできているか」という点。

「この子は自分の左斜め45度が一番美しいと知っているか?」「この子は汗をかいた時、どうすればセクシーに見えるか分かっているか?」

そういった自己客観視ができる子こそが、大衆を魅了し、巨大な資本を動かすスターになれるの。

――最後に、夢を追う日本の若者たちへ、最も伝えたいことは何でしょうか。

「審査員の顔色を伺うのは、もうやめなさい」ということ。

あなたが立つべき場所は、審査員の前じゃない。その向こう側にある「数万人の観衆が待つステージ」なの。たった数人の審査員を圧倒できない子が、世界を熱狂させることなんて不可能よ。

あなたの「歩き方」一つ、あなたの「顎の角度」一つが、数十億の価値を持つ商品であるという自覚を持ちなさい。その覚悟が目つきに現れた時、あなたはもう「候補者」ではなく、一人の「スター」として私たちの前に立っているはずよ