「今日は自分にサインを出させてくださいと言ったら、先輩投手に怒られましたよ。こっちは生活が
掛かっているんだ、ガキの教育に付き合ってらんねえよ、と。この状況は入団してから3年くらい続き
ました。大学卒、社会人を経験した捕手は新人のときからサインを出しても、子ども扱いされません
が」

この傾向は優勝を狙うチームであれば、とくに強いという。過去10年で7人もの捕手を指名しながら、
正捕手不在。トラの正捕手というと、矢野燿大現コーチのイメージも強いが、同コーチもトレードで
やってきた“外様”だ。そう考えると、80年代後半に活躍した木戸克彦氏以降、生え抜きの正捕手が
育っていないことになる。

「中村クンですが、どの球団も上位指名を考えていると思います。ただの強肩堅守の捕手ではありま
せん。『強打の捕手』になれる逸材だからです」(在京球団スタッフ)

阪神がスカウト会議を招集した前日、巨人・阿部慎之助が史上49人目となる2000本安打を達成した。
近年は一塁手だが、阿部以降、強打の捕手は出現していない。別の見方をすれば、正捕手を育てる難
しさをもっともよく分かっているのは阪神である。それでも、「中村の上位指名」を口にしたのは、
捕手育成に今まで以上に時間を費やす覚悟を示したのではないだろうか。

先のチーム関係者によれば、正捕手育成を託された矢野コーチは、試合後、ベンチ入りした捕手全員
を集め、同日の試合開始からゲームセットまで、どの球種をどのコースに投げたのか、全投球を
チャート表に書き込ませるという。「忘れた、思い出せない」とは言わせないそうだ。チャート表と
は、ストライクゾーンを9分割した図表のことで、球種は「○」「△」「▽」など球団規定のマークを
使い、どのコースに何を投げたかを残しておくもの。矢野コーチは全投球を書き込ませた後、「なぜ、
この配球で(相手バッターに)打たれたのか」を講義する。そして、「次の対戦で失敗しないためには
どうすればいいのか」を一人一人に考えさせているという。