2017年10月16日21時22分
「1人に強くなれ」掛布氏が若虎に残した孤高の美学
https://www.nikkansports.com/baseball/column/naruohama/news/201710160000531.html

 これが掛布雅之だ。短命だった。惜しまれての退任劇だったが、試合後である。選手
からの要望だけにあらず、詰めかけた7131人のファンからも選手たちに「掛布を胴
上げしてくれ」の真に迫る熱烈な声が何度も何度も飛んだ。「胴上げは優勝監督がされ
るのが美学。僕がされる立場ではない」断固として辞退した。これが、野球人・掛布の
美学であり「1人に強くなれ」は若虎育成への掛布イズムである。一緒に戦ってきた男。
実に掛布らしい一面が見えた引退試合だったが、私が目の当たりにして“すごい”を感心
した舞台があった。1985年、日本一に登り詰めた年のペナントレース最終戦の最終
打席である。

 40発、108打点をマークしている。4番の重責は十分果たしていた。最終戦の場
所は今はなき後楽園球場。相手は巨人。このシーズン最後の打席が注目されたのは、バ
ッターであれば誰もがこだわる“3割”がかかっていたからだ。掛布がいつも通りバット
を片手にグラウンドへ出ようとしたときだった。「このまま打席に立たなかったら、新
聞紙面上の最終打撃成績は、四捨五入して.300で掲載されるはずや」(球団関係者)
の話がでた。一瞬「どういう事」など、まわりから議論白熱したが本人のひと言がすべ
てをさえぎった

 「そんな偽物の3割でごまかしたくないね」には全員が無言。二の句が継げなかった。
これぞ“ザ・カケフ”だ。逆に打席の掛布をベンチ全員がかたづをのんで見守った。会心
の当たりだった。バットの真芯で捉えた痛烈な打球は中前で弾んだ。強烈なプレッシャ
ーがのしかかる中での一打で476打数、143安打。打率は文句なしの3割へ。あの
場面での状況を思い出すと鳥肌が立つ。誰の助けもないあの打席。自分を信じるしかな
い中での一打。まさに「1人に強くなれ」をほうふつさせるヒットだった。