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 ただ、阪神は敗れた。阪神園芸のグラウンドキーパーたちは口には出さずとも「また、
タイガースに試合をやってもらえるように」と阪神の日本シリーズ進出を願っていたは
ずだ。「もちろん、公平の立場で整備していますが……」と金沢さんは悔しさをかみし
めた。

 甲子園のグラウンドを管理する彼らが阪神の勝利を願うのは当たり前の感情である。
これまでも阪神の要望にはできる限り尽くしてきた。

 俊足の赤星憲広(現スポニチ本紙評論家)がいた当時は一、二塁間の走路を硬くし、
走りやすくした。ジェフ・ウィリアムスや藤川球児が望む硬いマウンド用に新しい土で
固めた。能見篤史が軟らかめの土がいいと聞けば、着地点に応じて土の硬度を変えた。
二塁手・遊撃手の守備範囲を広げようと、外野芝生部分を刈り込んだ。

 整備を終え、決戦となる第3戦の試合前、「他にできることがあれば、何でもやるん
ですが……」と漏らしたのは「阪神のために」という意味だろう。

 しかし、敗れた。敗戦後もいつも通り、本当にいつも試合後に行っている通り、淡々
とグラウンドを整えていたのだ。つつましく、悔しさを押し殺して黙々とトンボをかけ
ていた。

 あの15日の第2戦、本当に試合を開催するような天候ではなかった。雨は間断なく
降り続き、1回表からマウンドに砂を入れた。泥田のようなグラウンドは決して野球が
できるよう状態ではなかった。