どうやら死んだみたいだ。あの世とやらでぼーっとしていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
どうだい、何を見てきた?と尋ねらた。

周囲を見渡したが誰もいない。

あなたは答える。色んなものを見て来たよ。
その時々のことを思い浮かべると、その情景が今まさにこの瞬間この場で繰り広げられているかのように感じられた。

生まれてから歳を取り、この場に辿り着くまでの全ての出来事が光となって、あなたを突き抜けた。
一瞬であったが一つ一つを丁寧に、その場にいるかのように体感した。

頬から涙が伝わったのが分かる。その一粒が手にとまった。その輝かしい水滴のうちに、これまでの人生の全てが詰まっているような気がした。

私が持ち帰ったのはこの一粒だ。。

あなたは地上世界から何一つとして物質を持って来なかった。肌身離さず持っていた携帯も、大切にしていた指輪も、お気に入りの服も、相棒であるバイクも、どこへ行くにも背負っていたリュックも、何もない。全て置いて来た。そう、財布も持っていない。

しかし、それらを思い浮かべると、今ここに身に付けているかのように感じられる。何も持っていないが全てを持っている。そのように感じた。


肉体を持っていた頃は、自分とはこの身体のことだと思っていた。論争もしたし、魂だと言ってる奴を打ち負かしたこともある。そんな奴らをからかって酒の肴にしていた。
ところが今となっては自分が何なのか分からない。

肉体ではない。かといって魂だと言われてもピンと来ない。生前と何も変わらないからだ。手や足の感覚は以前のまま。確実にある。肉体という体感を得ている。なのに見ようとしても実体はない。実体はないが確かに自分という感覚はある。生前のままだった。
夢でも見てるのではないかと思うほど、生きていた頃と何も変わらない。無になる予定だったのに。

いや、そう決めていた。いや、そうなると覚悟していた。いや、覚悟していたわけでもないが、そうなるはずだと確信していた。無であると。