メモ
https://mathsoc.jp/publication/tushin/index18-2.html
「数学通信」第18巻第2号目次 2013
https://mathsoc.jp/publication/tushin/1802/abe-saito.pdf
阿部知行氏の平成 25 年度文部科学大臣表彰
若手科学者賞受賞に寄せて
東京工業大学理工学研究科理学研究流動機構
斎藤 秀司
(抜粋)
阿部氏に出会ったのは,私が 2004 年に東大数理に赴任して最初の年,彼がまだ大学 3
年生の時である.Deligne の Weil 予想の証明 (Weil II) を勉強したいので付き合ってほし
いと個人的に頼みを受けた.ご存知の方も多いかと思うが,この論文は EGA はもちろん
SGA といった代数幾何の最先端理論を駆使した難解な論文であり,こんな論文を大学3
年生がはたしてどれほど理解できるのかといぶかりながら始めたセミナーであった.が,
彼の理解度は驚くほど深く,その類まれなる才能には目を見張らされた (東大に赴任した
ばかりだったので,東大生はみなこんなにできるのかと驚愕したのだが,これについて
は私の思い過ごしであることがのちに判明している).修士課程に入って私が指導教官と
なってからも最先端の理論を次々に吸収していく様は見事というしかない.このような逸
材を「研究指導」の名のもとに私の狭量な数学のなかに制約することは憚れる思いであっ
たのだが,そうこうするうちに「数論的 D 加群」という私の専門を逸脱した研究テーマ
を自分で勝手に見つけてくれた.私は立場上は大学院指導教官ではあるが,彼との数学交
流において多くを学ばせてもらっているのは私の方であると感じている.
阿部氏の研究のエッセンスを抜き出して表現すると,大局的な視野に立った問題意識,
問題の本質を見通す深い洞察力,そこから湧き上がる着想を実現する強力な計算力,そし
て忘れてならないのは,阿部氏の数学に脈々と流れる豊かな感性である.阿部氏の数学に
は,多くの優れた業績に共通する芸術的ともいえる美的感覚がある.実は,阿部氏はピア
ニストとしても人並み外れた才能を持っており,彼の音楽的感性が数学にも表現され恩恵
をもたらしているのだろう.

つづき