つづき

■「フェルマーの最終定理」を解いた数学がICカードに使われている……

──学問には「基礎」と「応用」があるといわれる中、数学には「基礎」よりももっとピュアな、純粋数学といわれる分野があります。数学の世界では、純粋と応用の分野はどれくらい離れているのでしょうか。

結論からいえば実は、現代社会においては、純粋数学と応用数学の区別はもう意味をなさなくなっています。つまり、「産業に応用されうる数学」は、いわゆる応用数学といわれてきたものの枠に収まらなくなっている。抽象度が非常に高くて純粋な数学の理論が、われわれのきわめて身近な暮らしに応用されているのです。

たとえば、ICカード。電子決済でかなりの大きな額のお金を動かすことができます。そのための堅牢なセキュリティーが実現したからこその社会実装ですが、その背後には「暗号技術のスペックが上がった」という事情があります。

そして、その暗号システムを作っているのは、「楕円曲線暗号」(1985年に発明された公開鍵暗号のデファクトスタンダード、RSA 暗号に比べて「短い」鍵で同等の安全性を提供できる暗号形態)です。

実は、この「楕円曲線暗号」は18世紀から研究されてきた高級な数学対象です。「フェルマーの最終定理」をアンドリュー・ワイルズが証明する上で、谷山・志村予想の一部を解決したことは有名ですが、その谷山・志村予想は、「すべての有理数体上に定義された楕円曲線はモジュラーである」という、「楕円曲線」の考え方にもとづく主張なのです。

ICカードの実装に重要だった「楕円曲線」は「フェルマーの最終定理」にもつながっている。このことが示すのは、純粋の中でも本当に純粋な数学、数論幾何学、代数的整数論などが「すでに人々のポケットの中に入っている」という現実なのです。

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