つづき

 彦坂先生は、優れた物理学者です。63年に米独の研究者がノーベル物理学賞を受賞した「原子核の殻構造」という理論を、彼らより10年以上前に考えつき、早すぎて受け入れられなかった。その先生が、当時の大学の標準的な教科書を使って、高度な内容を教えてくれました。

 彦坂先生には日僑学校でも理科を教わりましたが、よく怒って職員室へ帰っちゃう。実験中に誰かがあくびをしたら「無礼者!」と爆発し、配線を引きちぎったこともあります。そんな時は大概、僕が代表で謝りに行く。すると「皆が悪かったわけではないのだが」と語るのが常でした。

 《彦坂氏の四男・正道さん(79)(広島大名誉教授)は「子どもにも妥協がなく、厳しく教える父だった。読んだ知識でなく、自分の頭で考えたことしか相手にしてくれなかった」と振り返る》

 彦坂先生が語った「目前の師を尊敬せよ」という言葉は、僕の座右の銘となりました。人間というのは変なもので、身近にいる人をなかなか尊敬しない。毎日会っていると「大したことない」と思ってしまう。でも、師はどこにでもいるんですね。学者仲間も学生も、家族も。たまに反面教師ってのもあるけど。

 僕はこれを実践し、後に大学生や研究者になってから、身近な素晴らしい先生の存在に気付くことができました。(分光学者)
(引用終り)
以上