一高での数学の記憶と言えばやはり例の「事件」であろう。 
それはメンゲこと田中正夫先生がレポート問題として出した、
「円環を平面で斜めに上手に切ると切り口が2つの相交わる円になることを示せ」という問題である。
 私はそれを「真面目に」計算して、それでも一工夫を加えて、
田中先生のご著書「立体解析幾何学」によるものよりはかなり短い証明を得て満足していた。 
ところが中村得之君はそれをベクトルを使って解き、
数行ですむ簡潔な解を示して、『これでいいんだよ』と言った。 
僕は論理的には解っても情緒的にはあまり解った気がしなかった。 
そこで私は自分には数学の才能がないことを悟って数学科を諦め、
才能がなくてもつぶしがききそうな物理学科を選んだ。 もっとも、
数学科へ進んだ中村君は後で『数学科で君と一緒でライバルになるのは困るなと思っていた』と言ってくれた。