つづき

公理としての強さ
Grothendieck宇宙の存在はZFCから証明できない。
U がGrothendieck宇宙ならば U それ自身がZFCのモデルになるため、Gödelの第二不完全性定理から「ZFCは自身の一致性を証明できない」ことに反するからである。実際には、Grothendieck宇宙の存在は 強到達不能基数(strongly inaccessible cardinal)の存在と同値であり、ZFCに新たな大きな基数公理を追加するに等しい。

NBGとの比較
NBGとGrothendieck宇宙はどちらも「圏
Set の対象全体」のような大きな総体を扱うための処方箋だが、方針が異なる。NBGはZFCの言語を一段だけ拡張してクラスを導入し、ZFCの保存拡大として通常の数学的内容を変えない。一方Grothendieck宇宙は、言語はZFCのままで存在公理のみを強める。代わりに
U⊂V⊂W⊂⋯
と宇宙の塔をいくらでも伸ばせるため、「圏の圏」「圏の圏の圏」のように階層を任意に上に伸ばす議論を素直に展開できる。代数幾何のように圏論的階層を多用する分野では、Grothendieck宇宙のほうが好まれる傾向にある。

B.6 本書の立ち位置
本書では、集合論そのものを主題にはせず、ZFCを陰に仮定する立場をとる。本文では「集合=ものの集まり」という直観のまま読み進められるよう配慮した上で、必要な箇所でZFC由来の用語(分出公理・正則性公理・クラス)をコラムとして補足する構成となっている。本付録はそれら散在する言及の参照先として用意したものである。

第9章以降で圏 Set
の対象の集まりや圏 Hask
の対象の集まりに言及する場面では、「クラス」という語をNBG的直観で用いる。すなわち「集合より広い総体で、固有クラスは他のクラスの要素にはならない」という大筋だけを念頭に置けば十分であり、Grothendieck宇宙の枠組みには本書では立ち入らない。読者が圏論をさらに深く学ぶ際にはGrothendieck宇宙が再度顔を出すであろうが、本書の射程ではNBG的な「集合とクラスの二層構造」を直観として持っておけば、本文の議論を追ううえで支障はない。
(引用終り)
以上