小学校の時、家に遊びに来ておやつが出ると、いつも「手を洗わせて」という子がいた。
見ると必ず石けんを手のひらの中で器用にくるくると転がして、なんとも正しい手洗い法をしている。
幼稚園では“当たりまえ”なのに、小学校の高学年になる頃までには、「カッコ悪い」
などとワケのわからない理由をつけて“卒業”してしまう“正式な手洗い”を、彼女は五
年生、六年生になっても、何の疑問ももたずにつづけていた。

それだけじゃない。彼女は、洗面台に飛び散った水をティッシュをもってきて、キ
レイにふいたのだ。それを見た時、なぜだか焦りを感じた。自分が規則を守れないこ
との罪の意識ではなく、今思えば、女としての焦り・・・・・・、女として“もう負けてる”と
いう、ちょっとした劣等感だったかもしれない。その子はクラスでも光っていて頭
も良かったが、同じ小学生なのに、もはやここまで“開き”がでてしまったか・・・・・・みたいな。
ふだんは別に潔癖症というふうではなかったから、あれは単に母親の躾なのだろう。