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「プロ棋士か東大か?」迷える弟子に、木村一基九段が突きつけた“リアルすぎるひと言”
村瀬信也: 朝日新聞将棋記者   木村一基: 棋士
ライフスタイルニュースな本
2026年2月9日

プロ棋士を目指す若者に
大学進学は必要なのか
 奨励会は通常、6級で入会するところからスタートする。好成績を残せば5級、4級と昇級し、プロ入りへと一歩ずつ近づく。その道のりは平坦ではないが、並行して奨励会員たちが頭を悩ませるのが進学問題だ。

 棋士になって将棋を指すことだけを考えれば、学歴は直接は関係がない。受験勉強をするぐらいなら、その分将棋に打ち込んだほうがいいという考えも成り立つ。

 だが、もし棋士になれなかった場合、「いい学校」に行っておいたほうがいいかもしれない――。

 木村は高校卒業後、推薦入試で亜細亜大学に進学した。「将棋とは別の世界を見てみたい」と考えたからだった。奨励会ではすでに三段になっていたため、将棋と学業を両立できるのではという思いもあった。

「棋士に学歴は不要」と考える師匠の佐瀬勇次は大学進学に反対した。だが、木村は自分の意志を貫いた。

「3歳上の丸山(忠久)さんが早稲田大学に進学した時、師匠はえらく怒っていましたが、丸山さんは自分で進学を決めていました。だから私も自分で決めればいいんだなと。そのように考えられたのは、丸山さんのおかげと言えるかもしれません」

 その後、木村は23歳の時に四段昇段と同じタイミングで大学を卒業している。

 自身のこうした経験があるだけに、木村は弟子たちの進学に関して自主性を尊重している。ただ、本人が悩んでいると感じた時には声をかけることもある。

「プロ棋士」と「東大」の
二択で悩んでいた弟子
「以前、高校2年生でまだ級位者という弟子がいました。将来に不安を感じていたようでしたが、『東大を受ける』と言ったので、『両方ダメになるから、どちらかをやめたほうがいい』と言いました。『1週間考える』と言って、結局奨励会をやめました」

 その弟子からはしばらく音沙汰がなかったが、数年前のある日、自宅に電話がかかってきた。東大を卒業し、司法試験に合格したという報告だった。

「ずっと連絡がなかったので嫌われたのかなと思っていましたけど、うれしかったですね」

 奨励会は、プロになれる人より挫折を味わってやめていく人のほうが圧倒的に多い世界だ。退会後、将棋のスキルを生かせる業界に職を得る人は、そのうちの一部に限られる。

 木村は言う。
「奨励会をやめた後、将棋で得た知識が直接生きることはほとんどないと思います。それでも、自分が将棋に頑張って取り組んだという経験は大事にしてほしい。プロになれなかったことは、全然恥ずかしいことではありません」

 1つの目標に向かって努力を継続すること。うまくいかない時に試行錯誤してその打開を図ること。棋士になれなかったとしても、将棋を通じて得たそうした経験は今後の人生に役立つはずだと木村は信じている。